夢想幻夜 閑話( )


分かるまい。

 

 

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「私が前線を退いたほうがいいという

話は…龍馬殿も…?」

水辺に落ちた花弁のように、床にくずおれた綾之介は呟いた。

 

丁度良く2人きりになれた。

左近が綾之介に切り出した、戦力外の告知に、

思いのほか綾之介は傷ついた様子だった。

 

「……」

実際のところ、左近と龍馬は事前にそう

打ち合わせていた。

2人で風呂に入った時のことだ。

風呂付き合いの悪い綾之介。

自然に彼の身持ちについて話題が触れた。

 

桔梗が彼を気に入っていること。

里を無くした忍びは生きていくことが

難しいこと。

綾之介は死地に至るにはまだ若すぎること。

 

 

年齢の順番では龍馬より下の左近が、

折をみて綾之介に説くことにしたのだ。

 

綾之介が女の身だと知れた今、

左近は始めから考え直さねばならなかった。

 

…どうせ人には分かるまい…

 

といった彼なりの複雑な思案を経て、

たどり着いた先は綾之介ではなく

自らの心をどうするか、という選択。

 

最後にはすべて自分の責任にしてしまう。

今回もそうだった。

 

綾之介の身の上は考えるほどただ切なく、

何をとっても彼女の本意に沿わぬ気がした。

そして、左近自身はそれが何なのか

分からぬまま封印してしまったのだ。

 

「おまえを慮ってのことだ。

今まで通り取り計らうよう、

俺から良いように言っておこう」

 

吐息が触れるくらいの位置で

ささやくように綾之介に言った。

今度は龍馬を説き伏せなくてはならない。

だが、この娘のためならば良いかと思った。

 

その本意は誰も分かるまい。

自分でさえも。

 

 

 

 

2017.05.13 脱稿 

(無断転載禁止:雪独楽)