二度目


 

 

…こやつは、

そう簡単に手を出せる女ではない…

そう左近は見た。

二度目は無いかも知れぬ。

 

「お主は責任を背負い込みすぎだ」

伊賀の陣営。

呆れた声で、綾之介は詰め寄った。

 

 

「死んだ者たちのために

女であることすら捨てた貴様に

言われる筋合いは無い」

論破されて綾之介は口ごもった。

 

(なぜこいつは一人で全てを

終わらせようとする?)

綾之介も他人と一線を置いているが、

それは強くあろうとする為だった。

弱い自分を飾り付けるための。

 

だが、左近はそうではない気がした。

孤高……そんな言葉が当てはまるのかも

しれない。が、綾之介には理解しかねた。

今は、一人ではないのに、と。

 

左近の深淵の考えがわからぬのだから…

無理もないことだった。

 

突然前を歩いていた左近は振り返った。

体ごと。

「しかし…俺は

その捨てたものが欲しい」

 

話の筋がすり替わったことに

気づいた綾之介は躊躇った。

 

「お主の望むようにしたはずだ…

これ以上、何を望む」

思わず身を両手で抱く。

もう身体は震えていた。

 

「身体だけか?  おまえの女としての

 心も欲しいと言っている」

 

「心など…あの日…

お主が攫って何処かへやってしまった

だろう」

綾之介は精一杯の答えを返した。

 

二人の知らない何処かへ。

そして、そのきっかけを作ったのは

左近だと、暗に非難した。

 

「……身に覚えがないな」

そう言って、

微熱のこもった瞳で見つめる左近を

綾之介はまともに見ようとしなかった。

 

目線がぶつかれば、

何か弾けそうな気がしたからだ。

二度目はない。

綾之介は警戒した。

 

 

 

 


 2017.04.24 脱稿 

(無断転載禁止:雪独楽)